職場や家庭、あるいはプライベートでよく顔を合わせる人が、もしかしたらワキガかもしれない
そんな時、あなたなら本人に対してどのように伝えますか?
本人は無自覚なように見えるかもしれませんが、実は自覚し悩んでいて、真剣に対策を講じているかもしれません。自覚のある人が改善のために頑張っている段階で『臭いですよ』と指摘されると、強いショックを受けることは容易に想像できます。
また、ワキガを含む体臭は、遺伝に影響される部分が大きく、自覚の有無にかかわらず本人に悪気はありません。
さらに、遺伝や体質に関わりますので、本質的にとてもデリケートな問題なのです。
伝え方によっては、深く傷つけてしまったり、怒らせたり、最悪の場合は人間関係を壊しかねません。その場合、「スメハラ」という言葉はあなたの免罪符にはならないでしょう。
本記事は、理化学研究所敷地内の研究施設で体臭研究をしつつ、これまでに2,000人以上の体臭評価・アドバイスを行ってきた臭気判定士(においに関する唯一の国家資格)の石田翔太が「人間関係を壊さないワキガの伝え方」について、本人との関係性や環境のパターン別に、よく頂くご質問を交えて解説します。
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ワキガの臭いに本人が気づかないのはなぜ?
人間の嗅覚の仕組み的に、ワキガを含む自身の体臭を正確に感じることは、とても難しいと言わざるを得ません。
それには嗅覚が持つ『順応(じゅんのう)』『慣れ』という2つの機能が関係しています。以下では嗅覚の順応と慣れについて簡単に解説します。
『順応』は、最初は「あれ?」と感じたにおいが、徐々に気にならなくなる現象を引き起こします。例えば、知人宅へ訪れた際、訪問直後に感じた”その人の家のにおい”が、数分~数十分で感じられなくなるような、短期的な現象です。
逆に、『慣れ』はに同じにおいを嗅ぎ続けることで、自分にとって珍しいにおいではなくなり、毎回わざわざ感じなくなる現象を引き起こします。例えば、海辺に住んでいる人が、磯のにおいを感じることを意識しなくなるような、長期的な現象です。
つまり、もし自分がワキガ体質であった場合、嗅覚は短時間でワキガ臭に「順応」し、さらに「慣れ」が生じることで、自分から発生するワキガ臭を感じることが難しくなってしまうのです。
ワキガによるスメハラを伝える前に確認すべきこと
前述のとおり、ワキガは遺伝による体質であり、治すためには時間やお金を要する手術等の治療が必要になりますし、本人が気付けていないことも多いです。
また、人間誰しも、自覚の有無にかかわらず、自分の身体的コンプレックスをいきなり指摘されれば傷つきます。
そのため伝える際は、相手の状況を確認してから、最大限の配慮を行い慎重に行動しましょう。非常にデリケートな問題なので、なるべく事を荒立てないよう常に相手の気持ちになることが何よりも大切です。
以下では、ワキガを伝える前に確認すべき3つのことをご紹介し、その上で本当に伝えるべきかどうかについて論じます。
①本人がワキガによるスメハラを自覚しているか
もし本人が自覚している場合、既に何らかのワキガ対策を講じている可能性が高いです。そのため、「臭いに気をつけるように」とわざわざ伝えること非常に酷なことです。
その場合にあなたができることは、対策の効果が出るのを見守るか、あるいは後述の「ワキガによるスメハラを傷つけないように伝える方法」を考慮したうえで、一緒に対策を考えたり、その効果を伝えてあげる間柄を構築することです。
自分ではわかりづらいワキガ臭への対策は、その効果も自分ではわかりづらく、本人も暗中模索の状態かもしれません。そういう状況では、寄り添って、ワキガ対策の効果を教えてくれる人の存在はありがたいものです。
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一方で、本人に自覚がないのであれば、以下2つの確認事項を踏まえて慎重に伝えることも視野に入れましょう。
②そのにおいの原因がワキガか香料か
人間の鼻と脳は、強いにおいを感じると「不快」と判断します。
また、「ワキガ」という言葉が有名であるせいか、ワキガではない不快な臭いを他人から感じた場合であっても、「あの人はワキガだ」と捉える方も少なくないようです。
上記2つの要因が混在することでよくあるケースは、香水や柔軟剤等の香料、つまり本来は良い香りがするものの使用量が多く匂いが強く、ワキガと勘違いされるというものです。
このように、周囲がスメハラと感じる臭いの原因が香料である場合は、自分の体から発せられる体臭(ワキガ含む)である場合よりも、指摘される側のショックは少ないはずです。そのため、「香料の香りが強いから使用量を減らしてほしい」と伝えることは問題ないでしょう。
一方で、周囲がスメハラと感じる臭いの原因がワキガである場合は、上下の確認事項を踏まえて慎重に伝えることも視野に入れましょう。
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③他に気づいている人はいるか
ワキガ体質の人が近くにいることで、悩んでいるのは自分だけかを確認しましょう。
においの良し悪し/ 好き嫌いは香水と同じで、人の好みがあります。また、嗅覚の良し悪しも人によって違うため、あなたの嗅覚が普通の人よりも鋭敏である可能性もあります。
もし自分1人だけが悩んでいる状況であれば、相手に臭いの改善を促すことは難しく、またあなたが孤立してしまう恐れもありますので、本人にワキガであることを伝えるのは控えたほうがいいでしょう。
逆に、同じ悩みを抱えている人や、臭いに気付いている人が複数いる場合は、協力して状況を改善することができるかもしれませんので、上記2つの確認事項を踏まえて慎重に伝えることも視野に入れましょう。
ワキガのことを伝えた後、本人はショックを受けることが予想されるため、ある程度コミュニティー全体でアフターケアしてあげられる環境であれば安心です。
本当に伝えるべきか?
ここまででご紹介した「本人がワキガによるスメハラを自覚しているか」「そのにおいの原因がワキガか香料か」「他に気づいている人はいるか」の3点を踏まえて、あなたが伝えても良いのは「複数人の周囲の人が感じる程度に強いワキガ臭があるものの、本人に自覚がない場合」のみと考えます。
もちろん上記に該当しない場合であっても伝えることはできますが、この記事の目的である「人間関係を壊さないワキガの伝え方」という観点からは、伝えない方が無難という意味合いです。
次項では、相手のとの関係性別に、相手を傷つけないようにワキガを伝える方法を解説します。
ここまでで「伝えるべき」「伝えてもよい」という状況に該当した方は続けてご覧ください。
ワキガによるスメハラを傷つけないように伝える方法
繰り返しになりますが、ワキガのことを伝えた後、本人はショックを受けることが予想されます。「臭いに気をつけるように」と言われた後、放置されると本人は取りつく島もない状態になってしまうでしょう。
そのため、あなたとその方が、継続的にアフターケアをしてあげられる程度に近い関係 / 間柄であることが望ましいです。
いずれの関係性であっても、「親しき中にも礼儀あり」という言葉を忘れず、間違っても、「臭い」や「不快」という言葉で相手を傷つけないよう注意してください。
職場の同僚の場合
相手の立場にかかわらず、同じ職場にいる限り本人に直接伝えることは避ける方がよいでしょう。今後あなたの上司や部下になるかもしれませんし、同じチームや部署で働く可能性もあります。
また、あなたの伝え方や、本人の受け止め方によっては、『「スメルハラスメント」ハラスメント』のように、パワハラ等であなたが責められる立場になってもおかしくありません。
そのため、総務や人事といった、社内関係を統括する部署に相談し、対応を依頼することが無難です。スメハラ対策ということで、環境や身だしなみのルールを整え、臭いの問題を改善してくれるかもしれません。また、対話が得意な人事担当者が本人と面談し、丁寧に伝え、アフターフォローを講じてくれることもあるでしょう。
そのような間接的な伝え方であれば、少し時間はかかるかもしれませんが、あなたと本人の人間関係に影響することなく状況の改善を期待できます。
彼氏 / 彼女の場合
彼氏 / 彼女といった恋愛関係の場合は、付き合ってからの期間などの親密度によって対応を変えることが大切です。
仲が良く、何についても話せるような間柄であれば、「非難ではなく、本人のことを思って伝える」という気持ちとともに、直接伝えてもよいでしょう。
一方、まだそこまで親密ではないという場合は、親密度が増すのを待つか、あるいはあなたではなく、共通の知人の中で本人と一番親しいと思われる人に伝えてもらう方が無難かもしれません。
友人の場合
基本的には前述の「彼氏 / 彼女の場合」と同じです。相手との親密度によって、自分で伝えるか、共通の知人に伝えてもらうかを検討しましょう。
友人の場合、親切で伝えたのにそこから関係がこじれ、本人がイジメの対象になったり、逆にあなたがイジメられたりと、重大なトラブルに発展する可能性もあるため注意が必要です。
近年、「スクールカースト」という言葉が生まれるなど、学校内の人間関係は複雑ですので、あなたや本人の周囲の人間関係がどうなっているかが不明な場合は、共通の知人への相談も控えて、今まで通り穏やかに過ごすことも選択肢の1つかもしれません。
家族の場合
一緒にいる時間が一番長い家族の場合、彼氏 / 彼女や友人と比べて、お互いの親密度が高いことが予想されます。そのため、基本的にはあなたが直接伝えることが望ましいと考えます。
ただし、一緒にいて何でも言い合える間柄であるからこそ、この話題は本人が傷ついたりショックを受ける可能性が高いことを忘れず、「親しき中にも礼儀あり」という言葉を意識してください。
パートナー・親・兄弟の場合
親密度の高い彼女 / 彼氏や友人の場合と同じく、「非難ではなく、本人のことを思って伝える」という気持ちとともに、直接伝えるとよいでしょう。
子供の場合
ワキガの発現時期は思春期(第二次性徴)頃と多感な時期と被ることが多いです。そのため、本人の自尊心を傷つけないよう、特に「自分はあなたの味方で、一緒に対策を考えよう」という寄り添う姿勢で接してあげてください。
もし、既に学校等で指摘を受けている場合は、心に傷を負ってしまっているかもしれませんのでなおさらです。
また、ワキガ体質は親から遺伝するため、お子さんがワキガ体質である場合は両親のどちらか、あるいは両方がワキガ体質であると考えられます。そのため、両親の経験も踏まえて、お子さんが前向きになれるよう家族全体でサポートしてあげることが望ましいと考えます。
無関係な人の場合
たまたま電車で居合わせた人のワキガ臭が気になった場合など、相手が今後ほとんど会うことがないであろう無関係な人の場合は、余計なトラブルを避けるためにも、何も言わないことが賢明です。露骨に不快な態度を向けることもやめましょう。
デリケートな問題である分、わざわざ伝えることで、あなた自身が嫌な思いをするかもしれませんし、その人のその後の生活に影響を及ぼしてしまうかもしれないからです。
以下は筆者のツイートです。たとえ短時間同じ空間にいるだけでもあなたは嫌な思いをしているのだと思います。ただ、こんな考え方もあるのだなと、少しだけにおいに寛容になってやり過ごして頂ければと思います。
他人の体臭に厳しい意見を持つ人は、自分の体臭を不安に感じやすいかもしれません。
— 石田翔太|オドレート(odorate) |体臭/ワキガ/加齢臭の郵送検査サービスを開発せし者 (@shotaishida_) July 2, 2022
Twitterで「体臭」「ワキガ」「加齢臭」と検索すると、悪口が多く出てくるので、ふと。
何かの拍子に自分が深い悩みを抱えてしまわないためにも、自他のにおいに対して寛容な温度感を持つ方が良いと思っています。
「ワキガやスメハラの伝え方」に関するよく頂くご質問
ここまでお読みくださりありがとうございます。
以上で、「ワキガの伝え方」に関する説明の大部分が終わりました。
しかし、ここまでお読み頂くなかで、追加で生じた質問もあるかと思います。そこで本項では、「ワキガの伝え方」と関連して私たちがよく頂くご質問と回答をご紹介します。
本人が自分でワキガに気づかないのはなぜですか?
人間の嗅覚の仕組み、時に『順応(じゅんのう)』『慣れ』という2つの機能より、自分の体臭(ワキガ含む)を正確に感じることはとても難しいためです。
詳しい解説はこの記事上部の「ワキガの臭いに本人が気づかないのはなぜ?」をご覧ください。
ワキガの人は他人のワキガに気づくのか?
気づける人も、気づけない人もいます。
前述のとおり、自分の体臭(ワキガ含む)を正確に感じることは難しいため、自分と近いワキガ臭を発している人の臭いには気づけない可能性があります。
逆に、ワキガ体質ではない方でも、ワキガがどんな臭いかを知らない人の場合は、ワキガの臭いを感じても、それをワキガと認識しないこともあります。
職場や学校に臭い人がいて耐えれません
嗅覚も五感の1つですので、まぶしすぎる光を見たり(視覚)、爆音を聞いたりした(聴覚)時と同じく、強い刺激を受けると不快感を覚えます。
職場や学校にあなたが苦手な臭いを発する人がいると辛くなるのは自然な反応です。
ただし、体臭(ワキガ含む)に関しては決して本人も悪気があるわけではなく、また本人にも様々な事情があることが予想されます。
そのため、この記事で解説したとおり、本人との関係性や環境を考慮し、人間関係も含めてあなたが快適に過ごせるように、慎重に対応していただけることを願います。
自分では自覚がないのですが、ワキガと指摘されました
前述のとおり、自分の体臭(ワキガ含む)を正確に感じることは難しいため、実はあなたがワキガ体質である可能性があります。
ただし、イジメやイジリの可能性もありますので、まずは冷静に自分が本当にワキガ体質かどうかをチェックしてください。
▼ワキガの匂いが自分でわかる方法に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
「もしかして、ワキガ臭がしている?」と、電車内やエレベーターなどの人が接近する場所で、不安になる方も多いと思います。 脇特有の臭いであるワキガ臭は、誰もが持っている体臭です。そのため、必ず一度は不安になったことがある方は多いでしょう。 […]
まとめ:ワキガを伝えるときは慎重に。環境や関係性でよく考えよう
最後までお読みいただきありがとうございます。
この記事では、「ワキガの伝え方」について、本人との関係性や環境のパターン別に、よく頂くご質問を交えて解説しました。
「ワキガに気をつけて」と伝えるだけなのに、色々気にすることがあって面倒くさいと思われたかもしれません。
ただ、あなたがこの記事を見つけて下さったということは、この話題のデリケートさを理解し、相手を傷つけたくないという気持ちをお持ちなのだと思います。
実際に、ワキガであることを指摘された経験がある人の中には、配慮のない、あるいは辛辣な伝え方をされて日常生活に支障をきたしてしまう方もいらっしゃいます。
そのため、細かい対応はケースバイケースになると思いますが、あなたが伝える場合も、周りに協力を依頼する場合も、この記事の内容を参考に、本人に悪気がないことを忘れず寄り添い、一緒に考えてあげて頂けることを願いします。
本記事が皆様のご不安解消のお役に立てば幸いです。
▼ワキガに関して幅広く知りたい方は以下の記事もご覧ください。
「ワキガが不安で、人と上手く関われない」 「どのような対策をすればワキガが治るか分からない」 「そもそも、ワキガ臭はどうして発生するの?」 このようにワキガで悩んでいる方はとても多いです。 そして残念ながら、インターネットやSNSで紹介さ[…]